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東京家庭裁判所 昭和36年(家)738号 審判

申立人 ハワード・エム・フリングトン(仮名) 外一名

事件本人 北川ハワード・カイラー(仮名)

主文

申立人らが事件本人を養子とすることを許可する。

理由

調査の結果によると、申立人ハワード・エム・フリングトンは、一九三四年五月○○日アメリカ合衆国ペンシルバニア州○○○○において出生し、現に同国の国籍を有し、同国海軍(通信一等兵曹)に従軍する者、申立人ドミノ・マリーホルストは、一九三五年二月○○日ドイツ国ブレメンにおいて出生し、現に同国国籍を有する者であるが、申立人らは、一九五六年一〇月○○日ドイツ国ブレマーハーベン市において婚姻し、爾来夫婦共同生活をしているが今日に至るまで嫡出の子がなく、一九六〇年五月二〇日来日した後は肩書住所に居を定め、昨年来事件本人を引取つて手厚く監護養育していること、事件本人は東京都内で生れた父母の知れない孤児で東京都中央児童相談所の保護を受け、肩書地に本籍並びに住所を定めたが、現在は申立人らに引き取られて監護を受けていることがそれぞれ明らかである。

法例第一九条第一項第二七条第三項によれば、養子縁組の要件に関する準拠法は、各当事者につきその本国法によるべきであるから申立人ハワード・エム・フリングトンについてはアメリカ合衆国ペンシルバニア州の法律が適用され、申立人ドミノ・マリーホルストについてはドイツ国の法律が適用され、事件本人については日本国の法律が適用されるべきである。ところが、一般にアメリカ合衆国の州においては養子縁組につき当事者双方若しくは一方の住所の存する法廷地法が適用される旨規定されているので、本件当事者の住所をみると、事件本人の住所はアメリカ合衆国の国際私法からみても日本国にあるというべきであるから、法例第二九条により結局申立人ハワード・エム・フリングトンについては事件本人と同様日本民法が適用され、これについては特に養子縁組の要件に関し問題となる点はない。しかし、ドイツ国の国際私法(民法施行法)においては、本件の如き養子縁組につき法廷地法または住所地法が適用される旨の規定がないから、申立人ドミノ・マリーホルストに関してはその本国法であるドイツ民法が適用され、多少検討を要する点がある。

まず、ドイツ民法第一七四一条によれば、嫡出の直系卑属を有しないことと裁判所の認許を得ることが養子縁組の要件とされている。申立人ドミノ・マリーホルストに直系卑属のないこと前記のとおりである。そして、右の法案による裁判所の認許は単なる方式の問題ではなく養子縁組の実質的要件に属するものと解すべきであるが、右裁判所の認許に関する管轄についてドイツ国内非訟事件手続法は、ドイツ人が養親であるときはその住所、居所のいずれもがドイツ国内にないときでもドイツ国の裁判所に専属するとしている。しかしながら、一般に右のような管轄規定が国際法上他国の非訟事件手続法における管轄規定を排除するとは考えられない。したがつて、右ドイツ国内の非訟事件手続法の規定にかかわらず、当裁判所は、家事審判規則第六三条により本件につき、管轄権を有するものというべきである。しかして、前記ドイツ民法第一七四一条所定の裁判所の認許も、日本民法第七九八条所定の家庭裁判所の許可も、共に養子となるべき者の福祉を目的とするものであり且ついずれもその裁判によつて養親子関係を成立させるものではなく、養子縁組成立のためには別に縁組契約を必要とする点において同様であり、右の認許と許可は本質を同じうするものといえるから、ドイツ民法所定の裁判所の認許は、日本民法所定の家庭裁判所の許可をもつてこれに代え得るものと解すべきである。したがつて前記法条に定める要件はみたされるものというべきである。

つぎに、ドイツ民法第一七四四条は養親となるべき者の年齢は満五〇年以上にして且つ子より八年以上年長であることを要する旨規定する。しかし、右年齢の要件は同法第一七四五条により政府により免除を受けることができるし、その免除は縁組契約成立後になされても縁組を有効ならしめると解されている(近年養子縁組の緩和のための法律も制定された程であり、本件にあつても右申立人が免除の申請をすれば当然許容されるものと考えられる)から、申立人ドミノ・マリーホルストは現在満五〇年に達していないけれども、これがため養子縁組の実質的要件を欠いているとはいえない。他に同申立人につきドイツ民法上養子縁組の要件について問題となる点はない。

以上に説明のとおりであり、本件養子縁組は各当事者につきその準拠法の定める要件を備え、養子となるべき事件本人の福祉のため許可するのを相当と思料するから、申立を正当として認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 田中加藤男)

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